2013年6月3日月曜日

夜汽車・岩伍覚書


宮尾登美子さんのちくま文庫版の短編集。2作品を一冊にまとめた本。「夜汽車」のほうは「影絵」というタイトルで出版されたものらしい。
なお本のカバーには「宮尾登美子全短編」となってた。
少な!!!
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私がもともと読みたかったのは岩伍覚書なので、まずこっちから読んだ。綾子ものでおなじみの父親岩伍さんの一人称小説。
一人称小説というと私としては太宰の作品が頭に浮かびます、あの軽妙な語り口は絶品、最近末っ子が中学の読書の時間に私の本を持ち出して読んでいるらしい。それはおいといて。

宮尾さんの、というか岩伍の語り口は太宰の軽妙さには遠く及びませんが、「訥々とした」という表現がぴったりと思われるなんとも実直な感じです。
最初の三日月次郎の件は、ちょっとだらだらしてるなと思いながら読み進めましたが、後段が用意されてて、ここで思いがけずに大きく盛り上がりまして、ものすごく面白い読み物になってます。
すぼ抜きの話は出だしの部分を読んだときはマクラっぽいというか、落語っぽい感じもしましたね。
通して読んだ感想としてはものすごく面白かった。純粋に読み物として楽しめました。
シリーズ化してもっと書いてほしかったなあ。

読み進めながら気になったのは、これは実話なのかなあということ、少なくとも原型程度は。
宮尾さんが岩伍さんの死後、岩伍さんの日記を引き取った話は綾子ものを読んだ人間ならみな知っていること、ひょっとして日記に書かれていたことをそのまま、ということもあるのかなと。
宮尾さんのあとがきでもこの父親の日記のことは書かれているので、そこから題材を得て、ということはあとがきにはないものの推して知るべしかな。そう思うと一層面白さも増しますね。
でも父親のことを書くのはものすごく抵抗あったんですね、身を切るような思いだったんだろうか?シリーズ化は無理ですね。

これを読んで綾子ものを読んでたときの岩伍に対する印象が変わりました。
職業に貴賎の別なしという彼の信念は本当だったんだなあ。そう考えると宮尾さんの櫂以下の作品もまた違ったものにも見えてくる。
しばらくしたら再読してみるか。
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夜汽車のほうは普通に短編集だけど、「連」以外はやっぱり岩伍ものですね、名前は違うけど。
私は影絵が一番好きでした。量的にも質的にも一番だと思う。なんとも哀しい男女が描かれてますが、最後に救いがあった。
この本を出版するときにタイトル「影絵」を「夜汽車」に変えたのは作者の思いなのだろうけど、私は元のままでよかったと思います。

一番最後に読んだのは結果として本の真ん中にある「連」だったけど、この作品には少なからず驚いた。
女同士の愛憎、真珠に取り付かれた女の狂気を描いて結構迫力あります。これは作者の純粋な創作なのかやはりモデルがいたのか気になるけど、まあどっちでも良い、短いけど迫力ある、傑作だと思う。

宮尾さんの短編面白いなあ、もっと書いてほしかった。

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