2013年7月17日水曜日

寒椿


宮尾さんの連作短編集です。ただ1・2話は結構長く中編といった感じ。
岩伍覚書が結構面白かったのでこの本を借りてみました。

スカッと面白い剣客商売のあとでこの本を読んで、相変わらずの私小説っぽい暗くじとっとした世界にちょっとひいたけど、読み進めるとやはり面白く、最後では感動してしまった。
しかし男の私がこの小説で何故感動してしまうのかと考えてみた。
ここに描かれているのは皆それぞれ哀しく苦労を重ねた女達なわけだけど、おんなの生き方、ではなくて人間の生き方、になってるんだろうな。内容的にはどっぷり「おんな」なんだけどね。
結局最後は人間なんだね、自分の過去を思い、相手のことを思い、一人では生きていけなくて相手や仲間を思う、そうしなければ皆生きていけないんだということかな。

作品としては、作者を思わせる悦子を中心の語り手に据えて、4人をそれぞれ描き分けてるところが面白かった。
文章は相変わらず、キリッと締まって美しい。
「草の根を分けるようにして自分の心を覗き込んでみれば」
最後のほうに出てくるフレーズだけど、比喩も巧みなんだね。
自分の心って自分でもわからないことがある。わかってても認めたくないことも。草の根を分けるようにして、「覗き込」まなければ見えてこない自分の気持ちってあるよなあ。
そういう複雑な心の働きをいくつかの短い言葉でスパッと切り取って見せることこそは物書きの才能なんだろうなあ。

宮尾さんは決して多作とは言えない方だけどまだまだ未読の本があります、楽しみです。

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