2014年7月30日水曜日

吉原手引草


これも直木賞受賞作、松井今朝子さん。
タイトル通りの「手引」ですが、見事に騙されるというか、まあまさしく「手引」でもあるんですが。
前に読んだ直木賞受賞作「邂逅の森」が豪速球の物語だったのに比べて、本作は変化球ですが、恐ろしく切れの良い変化球といったところ。


前に読んだ「漂砂のうたう」と同じような設定、偶然でしょうけど、かなり似てます。
複数の視点での物語で、藪の中やフォークナーの死の床に横たわりてが思い浮かびましたけど、滑らかな語り口が上手で飽きずに読めます。
ちょっと進行が遅く感じますが、当時の郭というものをたっぷりと描いていてまさしく手引です。単に描くだけでなく、物事には全て理屈がある、郭のしきたりの一つ一つにもちゃんと理由があるという辺りがさらりと品よく描かれます。

しかし、最初からあった謎はいつの間にか推理小説の謎解きのようにまとわりついてきて、郭の世界と古臭い武士の世界とが最後でオーバーラップして、その対比は見事としか言いようがない。
そういう物語を「手引書」として読者にさらっと差し出してきた作者のニヤッと笑う顔が目に浮かぶようで、ちょっと脱帽。

読み進めるうちに饒舌にした宮尾登美子さんかなとも思ったけど、全然違いますね、この作家はだれでもない松井今朝子さんということが分かりました。

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